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廃用身(久坂部羊・幻冬舎文庫)

これは小説です。
分かっていながら、ドキュメンタリと言われれば信じてしまうような構成に
見事にハマってしまいました。

現場の医師が出版する本のために書かれた原稿+本の出版に携わった
編集者の注釈、という2部構成になっていて、
老人介護の現状や廃用身の切断についての生々しさを伝える、という
難しいテーマに成功しています。
現場の声だからこその患者本人の切実な願望、喜怒哀楽というものが
すっと心に入ってくる。

「廃用身」とは脳梗塞などの麻痺で回復の見込みが全く無い手足のこと。
回復の見込みが無い手足を切断してしまえば・・・

なんて恐ろしい発想なんだろう、と思った。誰もがそう思うはず。
しかし、本書を読むと動かないはずの手足が本人の意思と関係なく突如暴れたり、日常生活の大きな“邪魔モノ”になっている事実を知らされる。
しかも、邪魔どころか憎むべき存在であり、病気を悪化させる要因にもなりうるのだ。

そして必要のない手足があるばかりに、介護の負担は重くなり、
疲れた介護者たちは介護放棄・虐待への暗路に入り込んでいく・・・。

手足を切断した老人たちが、無くなった手足を惜しむこともなく、
むしろ生き生きと人生を楽しむように変わっていく。
そんなことがあるだろうか?
読み進むうちに「そうなのかもしれない」とも思わせられるし、
人間なら誰しも「もしかしたらまだ動くかもしれない」というかすかな希望を
捨てられないのでは?とも思う。

画期的な医療法なのか?それとも悪魔の療法なのか?

後半は予想もしない衝撃の展開となり、最後まで読み応えがありました。
老人介護なんてまだまだ先・・という若い世代にもショッキングな内容だと思います。

by marin_star | 2005-07-04 23:15 | 久坂部 羊  

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