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症例A(多島斗志之・角川文庫)

『分裂病』・『境界例』・『解離性同一性障害』・・・
メスでは直せない病だからこそ、実態が分かりにくく、
また治療法も難しい。

今までは、そんな認識だけでしたが、この本を読んで、
治療以前に病名の判断をすることがこれほど難しく、
最初の一歩を間違うとこんなにも恐ろしいのか、ということを
初めて知りました。
同様の症状でも病名が違えば、患者への医師の態度さえも
180度違うものが要求される―――――。
常に両方の可能性を考慮し、診断に悩む精神科医の過酷な内面が
よく伝わってきました。

多重人格モノではダニエル・キイスの『24人のビリーミリガン』が有名ですが、
やはりそれに比べると、複数の人格が出現するまでの精神科医の苦闘や
入れ替わるときの描写、最後の展開などに物足りなさを感じたのは
残念でした。

むしろ、関わった医師や周囲の人間をズタズタになるまで振り回してしまう、
『境界例』という病を最後までもっと突き詰めて欲しかったなぁ・・。

物語の展開としては、
精神科の問題に絡めて、戦時中の美術品の模造事件が掘り起こされ、
ミステリとしても読み応えがありました。

by marin_star | 2005-04-17 12:37 | 多島斗志之  

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