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チルドレン(伊坂幸太郎・講談社文庫)

2006年に単行本を読了したのですが、確か「アヒルと鴨の~」の初読の後で
何か物足りなさを感じてしまい・・・
(「アヒルと鴨の~」は本当に衝撃的な感動作だったので。)
伊坂作品の中でも特に人気の作品なのにタイミングが悪かっただけ!と思いなおし、
文庫化されてからすぐ、そしてついこの間3回めを再読。
ようやくこの作品を楽しんで読むことができたので、レビュー書きます^^;


陣内のキャラがやはり秀逸ですね。
ふだんはメチャクチャなことを言ったり、いい加減で自己中心的で
周りを振り回すちょっと厄介なキャラなんだけど、
時折見せる“満塁逆転ホームラン”的な言葉や態度が
ものすごくまっとうで、自然体が心地よくて、爽快なんですよね。

生まれつき目の見えない永瀬が見知らぬおばさんから
「がんばってね」と5,000札を握らされた時、
「なんでおまえだけ。ずるいだろ!」と本気で怒る陣内とか。
笑っちゃうほどの子どもっぽい態度の芯には、
生まれつきの障害=ハンデ・同情とは捉えない、本当の意味でボーダーを引かない、
これ以上ない人間としてまっとうな精神が宿っていて、
私たちは「差別・平等」ということに対して難しく頭の中だけで考えすぎ、
どこか勘違いしていることを思い知らされます。

こういうことをサラリと書いてしまう伊坂節はやっぱりスゴイ。

そして、何気ない会話やエピソードの一つ一つが相変わらず、素晴らしい。
どのページをめくっても、お気に入りの台詞や場面がいっぱいなんだけど、
中でも、家裁調査官の少年係となった陣内が、酔っ払って少年法を批判する
サラリーマンに絡まれたときに発したこの言葉が最高!

「俺たちは奇跡を起こすんだ。」
「ところであんたたちの仕事では奇跡は起こせるのか?」


伊坂さんは人間としての尊厳というのをすごく大事にしている作家さんだと思います。
「重力ピエロ」や「アヒルと鴨~~」「オーデュボンの祈り」なんかにも
その思想は貫かれていると思いますが、この本でも、父としての尊厳を
守るために、ふだんはいい加減な仕事っぷりの陣内が珍しく世話を焼いたりします。

5篇の短編が年代を前後しながら連なっていく連作集なので、
「どの年代の陣内なのか」を意識しながら読むと分かりやすいと思います。
(初読ではそれがイマイチ掴めず、「????」って感じになっちゃいました^^;)


読み返すたびに味わいと愛着が湧いてくる・・・そんな一冊。
初読だけでやめずによかった!
今では大好きな一冊になりました。
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by marin_star | 2007-10-23 23:23 | 伊坂幸太郎  

FRY(新野剛志・文春文庫)

新野さん初作品です。

江戸川乱歩賞受賞作家さんなんですね。実は全然知らなくて・・・
店頭でふと手に取り、恋人を目の前で殺された男が15年かけて犯人を追う・・という
骨太の設定と、パラパラと拾い読みしてみたらグッと惹き込まれそうな感覚が
あったので、買ってみました。

正解!!

すごく面白かったです。
私、けっこう、こういう暗めの執念が滲み出るような話が好きなのかも・・^^;


17歳の高校生だった向井は、ボクシングの自主トレで走りに行く高台の公園で
九州一周の旅行中で公園にテントを張って寝泊りしているという中年の男に出会う。
優しい目をして話しかけるその男は指名手配中の殺人犯・戸浦だった。
それに気づいた向井は警察に通報するが戸浦は逃走、
それを逆恨みされ、向井は目の前で恋人の佳奈を刺し殺されてしまう。。。

一方、戸浦の愛娘・祥子は、殺人犯の娘として自分の夢も恋もあきらめ、
他人とも距離をおいてひっそりと暮らしている。
同じバイト先の俊介は祥子に想いを寄せるが、祥子に付きまとう向井の存在を知り、
向井・戸浦の執念の関係の中に引きずり込まれるように関わっていくことになる。

これに、向井と同郷の人気アーティスト・美咲、美咲の母の愛人・松永、
高校時代に佳奈に想いを寄せていた相田が登場し、
物語は15年の歳月をかけてじわじわと絡みあい、グイグイと読ませていきます。

向井の執念。
あまりに残酷な形で突然終わってしまった17歳の少年の純朴な恋は、
ここまで人を追い詰め、変えてしまうのか。。。
無表情で何かに突き動かされるように祥子につきまとい、
戸浦を探し続ける向井。


ラストに向かって徐々に明らかになっていく真相はまさに衝撃でした。
生きるために歌手になるしかなかった美咲の人生も、あまりにも哀しい。
殺人犯の娘というだけでも重いものを背負っているのに
叶うことのない恋をあんな形でしか示せなかった祥子も。
そして、佳奈の本当の苦しみも。


でも、こんなにも残酷で悲壮な物語でも読後感に安らかな気持ちが残ります。
心が掻き乱されるほどに苦しくて哀しい、でもまた再読したいと思わせる
読み応えのある本でした。
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by marin_star | 2007-10-22 12:33 | 新野剛志