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深紅(野沢 尚・講談社文庫)

野沢作品は今まで「破線のマリス」しか読んだことがありませんでした。
で、つまらなかったんですよ・・・
(江戸川乱歩賞作品なんですけどね・・・レビューも書いてないし。)

ドラマの脚本家としてはものすごく好きな人だったんですが、
「破線のマリス」もTV局が絡んだ話だし、
やっぱり野沢さんはTVの人なんだな~・・・と思って、
それ以後、小説は読んでいませんでした。

でも、この作品は面白かったです!
(今まで敬遠していてゴメンなさい・・・)


小6の修学旅行中に、両親と幼い弟二人をハンマーで殴られ
さらに顔を打ち砕かれるという残虐な犯行で失った奏子。
親戚に引き取られ大学生になった奏子は、加害者にも同じ年の娘が
いたことを知り、正体を隠して会いにいくことを決意する。

一家惨殺の生き残りとして生きていかなければならなかった奏子。
事件のことを調べるうちに、殺された父にも人道的な非があったことを知るが、
生き残ったことへの罪悪感や加害者への憎悪が、ない交ぜになって
「毒素」のように身体じゅうを駆け巡ってしまう。
加害者の娘・ミホに対して、背負うべき苦しみの形を妄執することで
自分の苦しみが解放されるのか、逆に増幅してしまうのかも分からないまま、
ミホに接近し、殺人者への道を歩ませようとする。

加害者の娘は自分よりも深い傷を背負っていなければならない。
過去の忌まわしい事件・自分に流れる殺人者の血を忘れるな、思い出せ。

そんな思いに突き動かされ、ミホを陥れようと策略する奏子。

恋人へも素性や本心を打ち明けられない孤独、
そして修学旅行中に呼び戻されて遺体に対峙するまでの「4時間」の呪縛・・・


加害者の娘・ミホもまた、父を殺人者へ駆り立てた被害者の男を恨みつつ、
「私の父は死刑囚なんだ」と告白することから人間関係を始める生き方を選び、
結婚相手からは日常的に暴力を振るわれている。

加害者の娘と被害者の娘、それぞれの心の奥底に溜まった澱(オリ)を
丹念に積み上げるように描くことで、彼女らの必死な生き様、
痛々しい心の叫びが、リアリティを持って胸に迫ってきます。

ひとつ踏み外せばもろく崩れてしまうような危うい二人の関係が
徐々に深まり、変わっていき、緊迫したストーリーでラストへ向かっていきます。
あまりにも壮絶な過去を否応なしに背負わされてしまった二人の少女に、
心の呪縛から解放される時は来るのか・・・
最後まで引き込まれるように、のめり込んで読んでしまいました。
ラストも、「なるほど」と納得の着地点でしたね。

今まで敬遠していてもったいなかった・・・と思わせる、スゴイ作品でした。

第22回吉川英治文学新人賞受賞作品
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by marin_star | 2006-07-11 22:10 | 野沢 尚  

殺人の門(東野圭吾・角川文庫)

なんと表現したらよいのか、非常に難しい小説でした。

お手伝いさんを雇うほど裕福な歯医者の息子、田島。
小学生の頃から地道に働くことより大きく儲けることに執着していた倉持。
この二人の小学生時代から青年期まで延々と続く因縁を
克明に丹念に綴っていく、地味といえば地味な物語です。

「あいつを殺したい」 ―― 多くの人間が願望のみに踏みとどまる
一線を踏み越えてしまうものは何なのか。
田島は、ささやかな自分の幸せを瓦解させ翻弄する倉持に殺意を抱くが、
口の上手い倉持の前に殺意は増幅したりしぼんだりを繰り返し、
その一線を越えることができない。

田島という男は、はたから見てもお人よしで、
意志が弱く、流されやすい、懲りない男。
なんでそこでまた騙されるかなぁ~…と思う場面が
何度も出てきます。
女にも免疫がなさすぎて、すぐにのぼせ上がっちゃうし。
言い訳を聞かされれば、すぐにコロッと言い含められちゃうし。

でも、こういう騙されやすい弱い人間って確かに存在すると思う。
そんな弱い男を、思うがままに「捨石」にしてまとわりつく倉持のような男も
たぶんたくさん居るんだろう。
そんな歪んだ因縁と、増幅したりしぼんだりを繰り返す殺意の行方を、
丹念に淡々と、しかし力強く描いている力作だと思います。

派手な展開はないけれど、なぜか読むのを止められない、
そんな作品でした。

ただ、解説にあったようなラストに登場する男の台詞や「友情」という言葉は、
まったく理解できませんでした。
田島と倉持の間には、歪んでいたにしろ「友情」なんかなかったでしょ。
あったとしたら、倉持の一方的な支配欲。
「田島のお人よしな性格は自分の予想の範疇を超えない」っていう程度の
信頼(?)みたいなものはあったと思うけど、
それを「歪んだ友情」というのはどうかなぁ?と思う。
他人の人生を手中に握ることでしか満足を感じられない男に目を付けられ、
いいように振り回されて憎悪と殺意に揺れ動く哀れな男の話、と
感じられました。
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by marin_star | 2006-07-06 09:16 | 東野圭吾