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博士の愛した数式(新潮文庫・小川洋子)

たった今読み終わって、ものすごい感動に包まれています。
最後の1ページは、涙があふれて胸が詰まりました。
今も、涙腺がじわっときます。。。

「ぼくの記憶は80分しかもたない」
くたびれた背広に無数のメモを貼り付けた「博士」は、
事故の障害により、きっかり80分前の記憶が完全に消失してしまう。
そんな博士のもとに家政婦として雇われた「私」とその息子「ルート」の
温かい慈愛に満ちた、ちょっと風変わりな生活と心の交流が
淡々と綴られていきます。

記憶を失ってしまう博士にとって、毎朝訪れる家政婦は
いつも「初対面」。
そんな些細な事実にも衝撃を受けます。
そして、メモを確認することで
「ぼくの記憶は80分しかもたない」という事実を
受け入れなければ始まらない毎日。。。

なんという孤独でしょう。

そんな博士の唯一のコミュニケーション方法が
数字や数式を語ることなのです。

ただの素っ気無い数字や数式に、こんなに深い意味と美しさを
見いだすことができるなんて、数学が苦手な私には驚きでした。
純愛の文学と数学が見事に融合していて、
数式の解説部分も退屈や押し付けと感じることが全くなく、
博士の心の言葉としてすーっと心に沁み込んできます。
奥深い数学の世界の入り口を、ちょっとだけ私も覗けたかな、と
幸せな気分にさせてくれたことにも、感動を覚えました。

記憶を維持できない老博士と、まっすぐに向き合う親子の姿は、
本当の「慈しむ心」とは何か、お互いに支え合い、
守り合うことの大切さを静かに語ってくれます。
生活の一つ一つのシーンがかけがえのないものであり、
そのかけがえのない記憶を維持できないことが
いかに辛いことか、ということも。
そして、同情ではなく対等の人間として相手の尊厳を尊重する大切さを
10才の少年に教えられたりもします。

ラストへの展開は、淡々と綴られていきますが、
哀しく切ない中にも深く温かい愛情に満ちた、
春の陽射しのような穏やかな祈りのようなものを感じ、
涙してしまいました。

普段、長編を好む私にしては、とても薄い本でしたが、
濃密でたっぷりとした余韻のある、本当に素晴らしい作品でした。

第1回本屋大賞受賞作品。
2006年1月 映画化(寺尾 聡・深津絵里)
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by marin_star | 2006-02-15 12:18 | 小川洋子  

トワイライト(文春文庫・重松 清)

小学校の卒業記念とかにタイムカプセルを埋めることって、
結構あるよね。
20年・30年後の未来に輝く期待と可能性を
無条件に信じていたあの頃。

そんな過去の純粋で少し恥ずかしい思い出に対峙するとき、
現実の厳しさを背負い込んだ「大人」の私は、
いったいどんな反応をするのだろうか。。。

過去にタイムカプセルを埋めた経験はないけれど、
そんなことを考えてしまう、切ないお話でした。

ドラえもんの登場人物になぞらえた、過去からのタイムカプセル物語。
ホロ苦いどころか、苦々しいどうしようもない現実、
輝かしいと信じていた「未来」への喪失感・・・。
ほんと、登場人物たちはみなものすごい切ない事情を抱えてます。

もし今、12才の自分が現実にふと現れ、
「あなたは、いま幸せですか?」と聞いてきたら。
・・・「幸せよ」って笑っていえるのかな?
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by marin_star | 2006-02-06 21:46 | 重松 清  

容疑者Xの献身(文芸春秋・東野圭吾)

祝!直木賞受賞!!
・・・ということで、文庫派の私ですが、本屋に走りました^^。

なんの予備知識もなかったので、「探偵ガレリオ」の湯川さんたちが
登場してきて、ちょっとビックリ。
でも、この物語は湯川さん無しでは存在し得なかったのですね。。。

純愛、ですね。
緻密な天才数学者(現在は高校教諭だけど)の「献身的」な深い愛情が
描かれつつ、事件の謎解きのミステリとどんでん返し、
そして謎解きのきっかけまでもが、深い友情とミステリの両方に
なんともいえない切なさを加えています。

夢中になってページをめくったり、涙が止まらなくなるような激情的な
感動ではなく、静かな深い「切なさ」が残る物語です。

よい本でした。
でも、東野さんにはもっともっとよい作品がたくさんあると思います。
とにかく念願の直木賞受賞、「ゲームに勝てて」おめでとうございます!
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by marin_star | 2006-02-05 22:30 | 東野圭吾  

模倣犯(一~五) (新潮文庫・宮部みゆき)

何から書こうか、とても困ってしまうほど、内容が濃密で
読み応えがありました。
連続殺人事件の犯人・被害者・被害者の遺族、そしてさまざまな理由から
事件に関わる人たち、その周囲の人たちの内面までも、
じっくりと深く描かれています。
もう一つの過去の事件を内面に抱えた人たちも絡み合い、
日本中を観客とした犯罪の舞台が進行していきます。

人間の尊厳を粉々に打ち砕くことを楽しむ、
忌まわしくも緻密で邪悪な事件を次々と展開するピースとヒロミ。
「どこまで人間は邪悪になれるのか」
う~~ん。。。ここまでリアルに描かれると本気で恐ろしいですね。
残虐な嗜好の人間の狂気というのが、理解はできなくても
肌に迫ってくる恐ろしさがありました。

事件に振り回される周囲の人々の苦しみも丹念に描写されていますが、
特にもう一つの事件によって心に闇を抱えている真一と、
被害者の祖父・義男は、もしかしたら本当の主人公はこの二人では?と
いうほど、光った存在感を放っています。

ただ、ヒロミとカズの事故や、最後の「サル真似」のくだりは
少し物足りない感じがしました。
あの「事故」が仕組まれたものだとしたら・・・
真実を明らかにするのが、あんな安易な挑発によるものなのか・・・
暴走しやすいヒロミをピースがいつまでも放っておくはずがない、と思ったら
都合よく事故に?という気が。
緻密でクールなピースの唯一の弱点が「創造性の否定」だったとしても、
追い詰める役が滋子だったせいか、とても頼りなく、
こんなことで白状するの?という感じはありました。

ものすごく切迫したギリギリの状態の登場人物たちが、全て最後は
何かしら解き放たれる・・みたいな終わり方も、そんな簡単なものなのか・・?
というところも。
最後はそうしないことには収拾つかないのかもしれませんが。。。

ちょっと辛口になってしまいましたが、5巻あっても中身は濃密で
グイグイ引き込まれて読みました。
面白かったです。
ただ、テンポの速い展開が好きな方には難しいかもしれませんね^^;
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by marin_star | 2006-02-01 12:34 | 宮部みゆき