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ヘーメラーの千里眼<上・下>(松岡圭祐・小学館文庫)

不屈の精神力・類稀な強い使命感の持ち主・岬美由紀の
意外なルーツが明かされた作品。

防衛大学校の存在すら知らなかった高校生の美由紀が
その第1歩を踏み出すきっかけとなった淡い初恋。
持ち前の負けず嫌いを発揮して厳しい専門訓練を乗り越え幹部候補生となり、
空自の花形パイロットになるまでの美由紀を支えたのも
型破りで優秀な“伊吹先輩”への憧れだった・・・。
女性版ダイハードともいえるカッコイイ美由紀も、
きっかけは『どこにでもあるこんなことなんかいっ!』とツッコミたくなりますが・・・^^;
だからこそ、悩み成長していく過程に共感できるのかもしれません。

現役自衛官の伊吹が演習中に起こした過失致死事故の解明、
麝香片麻薬の密輸に絡むアルタミラ精神衛生と中国マフィアとの戦いが
美由紀のルーツをなぞるように、展開していきます。

今までのダイハード的(笑)な美由紀の活躍は少なかったかもしれません。
アルタミラ精神衛生もまだこのまま終わるとは思えません。
(アルタミラの追い込みはちょっとあっけなかったし。)
中国マフィアの密輸船を護衛する戦闘機パイロット梁暁濱も、
きっとまた現れる宿敵となる気がします。
前作までのメフィストとの壮大な戦いが終結し、新たな強大な敵が
出現する・・・、そんな序章ともいえる作品なのではないでしょうか。

戦いを終えた美由紀からは、“後悔”や“未練”といった過去と訣別し、
純粋に前向きに進んでいける清々しさと新たな決意を感じました。
恋愛についても、きっと今までと違った美由紀が見られるかも?

本作も読み応えがあり、カッコイイ自衛官たちの姿に感動しましたが、
次回作は、もっともっと美由紀のダイハード的な活躍を期待したいです!
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by marin_star | 2005-05-30 08:06 | 松岡圭祐  

ラッシュライフ(伊坂幸太郎・新潮文庫)

恥ずかしながら全く初めて知った作家さんです。
店頭でかなり平積みされていて、全く別々に進行していく4人の物語が、
あるとき交錯する―――という内容に惹かれて購入。

別々の水源から流れ出した川が大海で一緒になるように、
複数の物語が最後に一緒になって、なだれ込むように
ラストへ向かっていくのかな、(ジェットコースター・ムービー的?)と
思ったら、ちょっと違いました。

自分の信じる美学に基づいて仕事をする泥棒の男、
父の自殺後、信仰していた『神様』を“解体”する青年、
不倫相手との再婚のために殺人を企てる女カウンセラー、
リストラされ再就職もできないのに野良犬を拾ってしまう中年の男。

彼ら4人とその周辺の人々の人生が、あちこちで、さまざまな形で
複雑にクロスしたりニアミスしたりして話が進んでいきます。
時間軸も巧妙にずらされていて、最後まで展開が全く読めず、
本当に最後の最後になって、ようやく全貌が姿を現す、という感じでした。
そう、物語の中にも出てくるエッシャーの騙し絵のような・・・。

不思議な読後感です。
どんな絵柄かもわからないまま、大きなパズルを部分的に組み立てていって、
最後のピースを埋め込んだ途端に絵柄が目に飛び込んできた・・・そんな感じ。

面白い作家さんだと思いました。
ミステリファンの間ではすでに有名な作家さんのようで、
ホントお恥ずかしいですが、他の作品も読んでみたいなぁ~。
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by marin_star | 2005-05-07 23:26 | 伊坂幸太郎  

ゴッホ殺人事件<上・下>(高橋克彦・講談社文庫)

はっきり言って掴みどころのない、つまらなそうな導入部だったんですが、
主人公の由梨子とその親友マーゴの登場で物語が大きく動き出します。

パリ在住の美術品修復家の由梨子は、日本に残してきた母が自殺し、
遺品の中にドイツ語で書かれた何かのリストを見つける。
パリの美術館で学芸員をしている友人に確認したところ、
存在さえ知られていない、膨大な数のゴッホ作品のリストかもしれない、と・・・。

存命時代には評価されずに自殺したゴッホは、未公開の作品がどこかに
眠っている可能性は高く、リストが本物であれば安く見積もっても
500億円を超える作品群だという。

そんなリストをなぜ母が持っていたのか―――。
由梨子は友人のゴッホ研究者・マーゴとともに調査を始めるが、
彼女らの前にネオ・ナチを調査するモサド(イスラエル諜報機関)の人間が
現れる・・・。

大金が動く未公開作品出現の可能性、自殺したといわれている
ゴッホの他殺説の発表・・・
美術史を揺るがす大事件の裏に潜む国家的陰謀。

美術には全く詳しくない私ですが、
ゴッホの他殺説や未公開作品出現の可能性というものが大胆かつ緻密に
構築されていて、空想のストーリーと思えないほどの説得力があります。
また、ゴッホの書簡集などから分析される他殺説の展開や
ナチスの美術品押収の歴史に触れる部分を読むと、
作者がいかに美術に造詣が深いかが伝わってきます。

『美術ミステリの決定版』とも言われているようですが、
美術を全く知らない人でも引き込まれてしまう面白さがあります。

上下巻でそれぞれ450ページほどもある大長編でしたが、
途中から止まらなくなり、上巻の残り1/3から下巻の終わりまで
一気に読んでしまいました。
真相に迫るラストもあっと驚く展開で、最後まで本当にムダもなく、
よく練られた奥の深い作品だったと思います。
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by marin_star | 2005-05-06 22:27 | 高橋 克彦