カテゴリ:初野 晴( 1 )

 

水の時計(初野 晴・角川文庫)

ずーーーっと前に購入していたんですが、
なんとなく読みそびれて積ン読の中に埋もれてました。

早く読めばよかった!!
すごく良かった!

童話「幸福の王子」の引用が冒頭にあるように、
脳死状態にある少女・葉月が自分の身体の全てを
必要とされている人々に分け与える・・・という寓話のようなミステリです。

脳死状態にありながら、月明かりの夜だけは特殊な装置越しに
言葉を伝えることができる葉月。
暴走族ルート・ゼロの幹部の一人・昴(すばる)は、
別の幹部仲間との対立からルート・ゼロを追われる身となり、
彼女の臓器を移植する患者を選び、届ける役目を負うことになる。

角膜・皮膚・腎臓・・・と移植のために切り取られ、死んでいるとされているのに、
言葉を持っている葉月。
何をもって「生」なのか?「死」といえるのか?

医療が進んだゆえに生まれてしまった、
「生」と「死」の狭間で「死に続けている」葉月のような苦しみ。

「死んでいく自由」
医療の進んだ現代において、たったこれだけのことがどんなに難しいことか。


ドナー不足や臓器売買、移植の斡旋詐欺、未成年の臓器提供の制約など、
「与える自由、与えられる自由」という重いテーマを根底に据え、
臓器移植に関わる現代の問題もきちんと捉えながらも、
胸を打つ美しい物語になっています。

葉月の願いをひとつひとつ叶えていくごとに昴が関わっていく人々との物語が
1話ごとに語られつつ、
昴を追う刑事や、腎臓移植の斡旋詐欺を追うフリーライター、
昴を追い続けるルート・ゼロの幹部との緊迫したストーリーが
展開していき、グイグイと引き込まれるように読んでしまいました。


いろいろと考えさせられるテーマを内包している物語ですが、
読んでいる最中はその重さが邪魔をすることはなく、
物語(ミステリ)としてとても面白くグイグイ読まされます。

これだけ重いテーマを扱っていながら、透明感のある美しい物語、という
不思議な印象を持ちました。
読後感も良いラストでとてもいい作品でした。


初野さん、他の作品も読んでみたいです。


第22回 横溝正史ミステリ大賞受賞作
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by marin_star | 2007-11-13 23:35 | 初野 晴