手紙(東野圭吾・文春文庫)

東野さんの待望の「手紙」文庫化、
購入して一晩で一気に読みました。

弟の進学費用のために強盗殺人を犯してしまった兄・剛志が、
獄中から弟・直貴のもとへ送る手紙を軸に、
「強盗殺人犯の弟」という運命に苦しめられながら
生きていく直貴の人生を描いています。

直貴は、女性に好まれる程度に容姿も魅力があり、
一度は断念した大学進学も自力で叶えるほどの学力もあり、
友人に誘われたバンドではプロデビューの話が舞い込むほど
歌の才能にも恵まれているが、
進学・バンド活動・恋愛・就職・・・というチャンスに
決まって「強盗殺人犯の弟」という運命が非情にも立ちはだかる。
いくら隠しても消えない兄との絆。

自分のために罪を犯した兄を、次第に疎ましく
断ち切りたいと思うようになる直貴。
確かに、こんなふうに隠しても隠してもほじくりかえされる家族の罪を
背負って生きていくのは、つらい。

そんな思いで必死に生活している直貴のもとへ届く剛志の手紙は、
検閲を通ってくるためにたいしたことは書けないせいもあり、
どこかのんびりした感じを受けてしまう。
塀の外を知る手段がないために時間の流れが止まり、
自分の罪を弟がどのように背負って生き続けているのかが見えない。
それが直貴をさらにイライラさせることになる。
獄中の厳しい生活の様子が語られない分、余計に塀の外の家族の
辛さが際立ってくるようだ。
このあたりの“手紙”の使い方は、さすが東野さん、上手いな~と思います。


読む手が止められず引き込まれるように読ませる力のある作品でしたが、
読後、なんだか残るものがちょっと弱かった感じです。。。
ラストもイイ感じで終わって、キレイにまとまっていたとは思うのですが・・・
(評判もよい作品で直木賞候補にもなったのに・・・)
東野さん待望の文庫、という期待値が大きすぎたのかもしれません。

「差別はね、当然なんだよ。我々は君のことを差別しなきゃならないんだ。
自分が罪を犯せば家族をも苦しめることになる――
すべての犯罪者にそう思い知らさせるためにもね。」

平野社長のこの台詞や存在そのものも何かちょっと直接的すぎて、
もっと深みのある登場の仕方や関わり方で訴えかけてほしかったかも。
犯罪加害者の家族をこんな視点(=差別しなきゃならない)で描いた作品は
あまりないと思いますが、やはり台詞で説明するのではなく
作品全体でこのメッセージが伝わるほうが、わたし的には好みかも。

犯罪加害者家族としては直貴は恵まれているほうだと思います。
素性を明かしても変わらない愛情・友情をぶつけてくれる由美子や寺尾の
存在もあるし。

犯罪加害者家族のつらさや、家族の罪を背負ってどうやって生きていくのか、
というテーマなら、乃南さんの「風紋」「晩鐘」のほうが読み応えがありました。
(こちらは犯罪加害者と犯罪被害者両方の家族の物語なんですけどね。)


・・・と、かなり辛口になってしまいましたが、
東野さんだからこそ・・とお許しください(笑)。
読みやすいボリュームでメッセージもしっかり伝わってくるし、
ラストに希望も見える。
普通の作家さんなら問題なく評価の高い作品だと思います。




2003年 直木賞候補作品
2006年11月 映画化(山田孝之・沢尻エリカ・玉山鉄二 他)
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by marin_star | 2006-10-13 08:41 | 東野圭吾  

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