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ゴッホ殺人事件<上・下>(高橋克彦・講談社文庫)

はっきり言って掴みどころのない、つまらなそうな導入部だったんですが、
主人公の由梨子とその親友マーゴの登場で物語が大きく動き出します。

パリ在住の美術品修復家の由梨子は、日本に残してきた母が自殺し、
遺品の中にドイツ語で書かれた何かのリストを見つける。
パリの美術館で学芸員をしている友人に確認したところ、
存在さえ知られていない、膨大な数のゴッホ作品のリストかもしれない、と・・・。

存命時代には評価されずに自殺したゴッホは、未公開の作品がどこかに
眠っている可能性は高く、リストが本物であれば安く見積もっても
500億円を超える作品群だという。

そんなリストをなぜ母が持っていたのか―――。
由梨子は友人のゴッホ研究者・マーゴとともに調査を始めるが、
彼女らの前にネオ・ナチを調査するモサド(イスラエル諜報機関)の人間が
現れる・・・。

大金が動く未公開作品出現の可能性、自殺したといわれている
ゴッホの他殺説の発表・・・
美術史を揺るがす大事件の裏に潜む国家的陰謀。

美術には全く詳しくない私ですが、
ゴッホの他殺説や未公開作品出現の可能性というものが大胆かつ緻密に
構築されていて、空想のストーリーと思えないほどの説得力があります。
また、ゴッホの書簡集などから分析される他殺説の展開や
ナチスの美術品押収の歴史に触れる部分を読むと、
作者がいかに美術に造詣が深いかが伝わってきます。

『美術ミステリの決定版』とも言われているようですが、
美術を全く知らない人でも引き込まれてしまう面白さがあります。

上下巻でそれぞれ450ページほどもある大長編でしたが、
途中から止まらなくなり、上巻の残り1/3から下巻の終わりまで
一気に読んでしまいました。
真相に迫るラストもあっと驚く展開で、最後まで本当にムダもなく、
よく練られた奥の深い作品だったと思います。

by marin_star | 2005-05-06 22:27 | 高橋 克彦  

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